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ご主人さまは旦那さま 記念SS 2
どうしよう、どうしよう、と混乱する。
駅前の時計台の下で辺りを見回したり、足元を見つめてみたり、ひどく落ち着かない。
休日にも関わらず、私がここにいるのには理由があった。
なんと、あの篠宮さんがお出かけに誘ってくれたのだ。
先日の会議で私を庇いきれなかったと謝罪されたから、そのお詫びのつもりかもしれない。
「待たせたな」
まだ考えている途中だったのに、心の準備さえ許されることなくその人が来てしまう。
慌ただしく挨拶をし、頭を下げた。
「……私服はそういう感じか」
呟くように言われてぎくりとする。
もしかして何かおかしかっただろうかと不安に思ったのに、篠宮さんは微笑んでいた。
「かわいい」
そのたった一言で打ち抜かれた気がした。
怖い人だと思っていたこの人がそんな言葉を口にしたこともそうだし、それが自分に賭けられた言葉ということにも衝撃を受ける。
社交辞令とは言え、あまりにも甘い囁きだった。
ぎこちなくお礼を言い、この気持ちから意識を逸らすために今日の目的を尋ねる。
「デートに決まっているだろう。逆に聞くが、なんだと思っていたんだ」
めまいがする。どうして篠宮さんがと思うけれど。
「職場以外でゆっくり話してみたくなった。だから誘ったんだが、迷惑だったか?」
そう尋ねられて首を横に振る。
初めての出会いから初デートまでわずか三日。
異例の若さで出世した我が社のホープは、行動力の鬼でもあった――。
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